top of page

技能実習制度:OECD労働移民政策評価が示す評価と課題



《概要》

2024年6月30日、経済分野の代表的な国際機関であるOECD(本部パリ)が

日本の移民労働者政策に関する報告書「Recruiting Immigrant Workers: Japan 2024」を公表し、

日本の技能実習制度について新たな視点を提示しました。


従来、「問題だらけ」とされてきたこの制度ですが、国際的な比較の中では

一定の評価を受ける面もあると評価されています。


本記事では、報告書の概要と、それを受けた感想をお伝えします。


報告書の概要


OECD労働移民政策評価は、加盟国の労働移民政策を詳細に分析し、

課題や提言をまとめた報告書シリーズです。


2024年6月30日に日本を対象とした「Recruiting Immigrant Workers: Japan 2024」が発表され、

8月26日には報告書を日本語訳した書籍「日本の移住労働者:OECD労働移民政策レビュー:日本」(明石書店)が発刊されました。


この報告書は、制度が複雑な各国の労働移民政策をわかりやすく整理した重要な文献として、

各国の政策立案に活用されています。


OECDの報告書では、技能実習制度について3つの特徴を指摘しています。


  1. 技能実習制度には研修や試験が含まれる 他の国では、短期間だけ働く労働者のプログラムに研修や試験は含まれません。しかし、日本の技能実習制度では、実地研修(OJT)を通じて仕事に必要な技術やマナー(清潔さや規律など)を学ぶ仕組みが特徴です。報告書は、技能検定をもっと実際の仕事に合った形に改善する必要があると述べています。


  2. 多くの組織が技能実習生をサポートしている 日本では、実習先の会社だけでなく、監理団体や外国人技能実習機構、送り出し国の組織など、いくつもの機関が関わり、実習生を守る体制があります。他の国では、労働者と雇用主の関係に公的機関があまり関与しませんが、日本ではしっかり関わっています。ただし、多くの機関が関わることで、責任の所在があいまいになるリスクもあると指摘されています。


  3. 雇用主が費用を負担している 技能実習制度の運営費は、国ではなく主に雇用主が負担しています。この費用は技能実習生の給料全体の11-25%に相当し、日本人の非正規雇用者を雇うよりも4%高いことが分かりました。これにより、「技能実習生は安く使い捨てにされている」という意見が誤りであることを示しています。



課題と今後の展望

報告書は、技能実習制度の課題として以下を挙げています:

  • 転籍の制限:初期投資の観点で一定の制限は正当化されるが、条件付きで転籍を認めるべき。


  • 家族帯同・統合政策の充実:特定技能への移行が進む中で、配偶者の労働市場へのアクセスや子どもの教育環境整備が重要。


  • 帰国後の技能活用:日本で得た技能や資格を国際的に通用する形にする取り組みが必要とされている。



感想:OECD報告書がもたらす新たな視点


技能実習制度については、国内外で多くの批判が寄せられてきました。


しかし今回の報告書では、国際的な文脈の中で日本の制度が持つ独自の特徴や強みが評価され、

議論を進めるための新しい視点が提供されたと感じます。


特に注目すべき点は、技能形成を制度の中心に据えた設計と、

多重の保護体制が一定の効果を上げているという評価です。


このような指摘は、技能実習制度に対する一方的な否定論を見直し、

公平な議論を促すきっかけとなって欲しいなと思うところです!


一方で、課題が解消されていない部分も多く、

転籍の柔軟化資格の国際認証などの改善点には大きな期待が寄せられます。


また、技能実習生の生活環境を支えるための統合政策の強化も不可欠です。


技能実習制度と特定技能制度が相互に補完しながら、

日本の労働市場や社会全体を支える仕組みへと発展するには、

政府・企業・受け入れ機関の協力が求められます。


今回の報告書を機に、日本の移民政策がさらに前向きに議論され、

よりよい未来につなげていきたいですね!


<参考>

「日本の技能実習制度に一定の評価も:OECDの労働移民政策報告書」nippon.com, 2024.12.10





Comments


bottom of page